綿谷りさ最新作「勝手にふるえてろ」感想


綿谷りさという作家には、勝手に同時代性を感じている。


予備知識として基本情報をわれらがウィキペディア様より引用


http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B6%BF%E7%9F%A2%E3%82%8A%E3%81%95


(引用開始)


綿矢りさ(わたや りさ、本名:山田梨沙(やまだ りさ)、
1984年2月1日 - )は、日本の小説家。
高校在学中「インストール」で文藝賞を当時最年少の17歳で受賞しデビュー。
大学在学中の2004年、「蹴りたい背中」により19歳で芥川賞受賞(金原ひとみと同時受賞)、
同賞の最年少受賞記録を大幅に更新し話題となる。2006年に長編第3作『夢を与える』を発表。
早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後は専業作家として活動している。


(引用ここまで)


俺は1979年生まれで、彼女は1984年生まれだから
俺の方がだいぶお兄ちゃんですが、少なくとも自分が読んだことの
ある様々な小説の中で、ああ同じ時代の空気を吸っているからこそ
こういう小説が書けるんだろうなあと思わせてくれる作家である。


これまで彼女の作品は全部読んできた、つもりだったのだが、
2006年の「夢を与える」とやらは完全に読んでなかった。


どうも社会人になって最初の3年間(2003年〜2006年)に
世の中で起こっていたことが、当時仕事に忙殺されすぎていて、
こぼれ落ちてしまっている。困ったものだ。


処女作「インストール」は鮮烈だった記憶がある。

インストール (河出文庫)

インストール (河出文庫)


ちょっと記憶があいまいだが、確か主人公の女の子(女子高生)が
当時流行していた出会い系サイトのサクラのバイトをするといった
お話だった気がするのだが、とにかく良く出来ていたイメージがある。


普段は優等生的な女の子がパソコン上にインストールされると、
出会い系サイトのサクラとして男を手玉に取るような自分に変身できちゃう
みたいな話ではなかったかな?


ぶっちゃけ正直言うと、俺にも書けそうな小説だなーと
生意気にも思いながら読んでいった記憶があるが、
たぶん読者みんなにそう思わせながらも、いざ書こうと思っても
意外と絶対に他の誰にもかけないという類の小説だったと思う。


なにしろ、突くツボがいいというか、時代の空気感をうまくとらえていて、
なんとなーくその時代に生きているみんなが思っていたり、感じたりしているんだけど
モヤモヤしている部分を、うまいこと小説という器に落とし込んで具体的に目に見えるものにしてくれる、
そんな感じの小説を綿谷りさって人は書くんだよなー、と思っている。


特に「インストール」は短くて、1日で読めてしまうと思うので
まだ読んでない人は、ぜひ気軽に読んでみてください。


2作目の「蹴りたい背中」はどんな小説だっけ?

蹴りたい背中 (河出文庫)

蹴りたい背中 (河出文庫)


よく覚えてないけど、なんだか片思いしている女の子の話だったような
気がする。それともつきあってる男の子との話だっけ?


ええい、困った時のウィキペディア様頼み!


http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B9%B4%E3%82%8A%E3%81%9F%E3%81%84%E8%83%8C%E4%B8%AD


ウィキペディアより引用開始)


人付き合いを厭う主人公が恋愛感情とも言えない、微妙な感情を抱くようになる過程を、高校での日々の生活を通して描く。


蹴りたい背中」は一般に「愛着と苛立ちが入り交じって蹴りたくなる彼(にな川)の背中」を指すものと推測されている。


(引用ここまで)


おお、当たってなくもない感じ!


まあ、綿谷りさって人が書く小説の主人公は、
基本的に、現実世界では目立たないネクラ系、
でもその中身は結構ドロドロしてて、
豊かな妄想力を武器にして脳内やインターネットなどの
仮想現実の世界では、暴れちゃいまっせって感じが多いんだろうな。


綿谷りさって人、本人もそんな感じなのかな?


ネクラなギャル男である自分としては、
そんな自分のネクラ部分を彼女の小説によって刺激されるから
共感を持って読めるのだろう。


まあ。そう考えるとせっかく美人だからもったいない気もするけど、
彼女がメディアに出たがらないというのも筋が通っているような
気がする。


現実世界でちやほやされて、万が一、勘違いでもしてしまったら
自分のキャラ設定がめちゃくちゃになってしまって、
書けるものも書けなくなってしまうかもしれないものね。


いくら芥川賞を取ったとしても、あくまで現実世界では、
目立たないネクラ系な人生を歩みつつ、
小説という脳内の仮想現実の世界で自我を暴れさせる、
それが彼女にとって一番居心地のいい生き方なのだろう。


と、ここまでは長いフリに過ぎず、
そんな彼女だからこそ書けた小説が今回の最新作
勝手にふるえてろ」だと俺は思ったわけです。


「夢を与える」は読んでいないのでアレなのですが、
蹴りたい背中」のような感じで、淡い片思いのような気持ちを
抱きながら、現実世界では躊躇し続けて、処女のままいい年になって
しまった経理課に勤めるOLが今回の主人公って感じです。


女子高生だったあの頃は、ただ妄想の世界で自己完結していれば
成立していたものが、社会人になってしまうと、どうしても
折り合いをつけなきゃいけないことが増えてくる。


それは「恋愛」に関しても一緒だと。


ここから多少ネタバレしますけど、
導入のトイレの「音姫」からの入りとかすごく今感があって
いいんですよねー。


今回の主人公の周りには二人の異性がいるわけです。


ひとりはイチという中学校の時の同級生で昔から気になっている
彼女が本当に好きだと思っている人。


もう一人は、二と呼ばれている、会社の同僚で、
自分のことを好きだといって告白してくれたけど、
自分は別に好きでもないと思っている男。


その二人の間で揺れ動く心情が今回のメインテーマ。


自分が相手のことを好きだと思っている人と一緒になるのが幸せなのか?
それとも仮に自分が好きでなかったとしても自分のことを好きだといって
愛してくれる男と一緒になるのが幸せなのか?


となんともベタな、「女の幸せは、追いかける恋愛か?
それとも追われる恋愛か?どちらが幸せになれるのか?」という
女に生まれたからには一度は考えるであろう永遠のテーマを
綿谷りさという人が正面から?描いている小説です。


彼女らしいのは、イチという同級生に関する思い入れは、
ほとんど彼女の脳内の妄想で完結していることと、
逆に二と呼ばれている人の方は、これでもかこれでもかと
彼女の苦手な現実世界で直接的に迫ってくるという点でしょうか?


つまり(私が勝手に愛している)脳内彼氏VS
(自分は好きでもない)現実彼氏 という彼女ならではの
対立構図もあるという点で、彼女らしさが見られるという感じでしょうか?


果たして主人公はどちらの男を選ぶのか?


それは読んでみてのお楽しみといった感じです。


蛇足ながら、最後の終わり方だけ、もうちょっと他の終わらせ方も
あったのかもしれないなあ、と実は思いました。


まあでも、あの結末ということは、もし小説の主人公と
綿谷りさ本人が本当にかなりの割合でシンクロしていたら、
近いうちに本人から現実世界でなんらかの動きが発表されるかもなあと
邪推してしまいました。これは単なる俺の妄想ですけど。


女子高生の時に「あの背中蹴ってやりたいなあ」と妄想を抱いていた
少女は、大人になって、妄想の対象に対して「勝手にふるえてろ」と
思えるようになった。これが社会人にもなる現代の年頃の女性の
「成長」なんだろうなあと俺は思ったわけです。